
近年、「お墓はいらない」と考える方が増えています。維持管理費や寄付・お布施といった費用の負担、あるいは将来の承継者がいないといった理由から、お墓を持たない選択肢を検討する方が多くなりました。
しかし、大切なご家族が亡くなった際、ご遺骨をどのように供養するかは避けて通れない問題です。この記事では、お墓を持たない場合の具体的な選択肢から、お墓を持つ・持たないことのメリット・デメリット、さらにはご家族で後悔しないための話し合いのポイントまで、詳しく解説していきます。
お墓を持たない選択をする場合でも、故人のご遺骨をどのように供養するかを検討する必要があります。ここでは、現代において主流となっている3つの供養方法について、詳しくご紹介します。
手元供養とは、ご遺骨の一部、またはすべてを自宅で保管したり、アクセサリーなどに加工して身近に置いて供養する方法です。近年、故人をより身近に感じたい、心の拠り所としたいという理由から選ばれる方が増えています。
法的な問題なし:ご遺骨を自宅で保管すること自体は、法律上の問題はありません。ただし、ご自宅の庭などに埋葬することは墓地埋葬法により禁じられています。
①ご遺骨の粉骨化:ご遺骨をパウダー状に加工します。これにより、コンパクトになり、保管しやすくなります。火葬場で発行される「火葬証明書」は大切に保管してください。
②手元供養品の選定・購入: 骨壺、ミニ仏壇、アクセサリーなど、ご希望に応じた手元供養品を選び、購入します。
③ご遺骨の納め方: 手元供養品にご遺骨を納めます。供養の儀式を行いたい場合は、僧侶を招いて納骨供養を行うことも可能です。
将来的に手元供養していたご遺骨を墓地へ納骨する可能性がある場合は、「埋葬許可証(火葬許可証に火葬済みの印が押されたもの)」を必ず保管しておきましょう。この書類は、初めて墓地へ納骨する際に必要です。
なお、一度お墓に埋葬されていたご遺骨を墓じまいして手元供養し、その後別の場所へ納骨する場合は、「改葬」の手続きが必要となり、別途「改葬許可証」が必要になります。
散骨とは、ご遺骨を粉状にし、海や山などの自然の中に撒いて供養する方法です。「自然に還りたい」「永続的な供養の場は不要」と考える方々に選ばれています。
①散骨業者の選定:信頼できる散骨業者を選びます。複数の業者から見積もりを取り、サービス内容や評判を比較検討しましょう。
②ご遺骨の粉骨化:散骨を依頼する業者に、ご遺骨の粉骨を依頼します。埋葬されていたご遺骨の場合は、洗浄・乾燥後に粉骨されます。
③散骨形式の選択:
・合同散骨:複数のご遺骨をまとめて散骨する方法。費用を抑えられます。
・個別散骨: 家族のみで船に乗り込み、個別に散骨する方法。故人との最期の時間をゆっくり過ごせます。
・委託散骨:業者がご遺族に代わって散骨を行う方法。遠方にお住まいの方や、乗船が難しい方に適しています。
④散骨の実施: 選択した形式に基づき、散骨が行われます。委託散骨の場合は、散骨の様子を写真や動画で報告してくれる業者もあります。
散骨は一度行うとやり直しができません。ご自身の希望だけでなく、ご家族やご親族の気持ちも十分に尊重し、慎重に検討することが大切です。
→ 散骨の基礎知識や費用の詳細は【散骨の基礎知識】知っておきたい手続きと費用 をご覧ください。
→ 墓じまいから散骨への流れの詳細は【墓じまいから散骨へ】手続きの流れと注意点で詳細をご確認いただけます。
永代供養墓と樹木葬は、お墓の承継者がいなくても、霊園や寺院が永代にわたって管理・供養してくれるお墓です。近年、従来の一般墓に代わる選択肢として注目を集めています。
寺院や霊園が管理・供養を行うため、子孫に負担がかからないお墓です。単独で安置されるものから、他のご遺骨と一緒に合祀されるものまで様々な形式があります。
墓石の代わりに樹木を墓標とし、その根本にご遺骨を埋葬する自然葬の一つです。
①霊園・施設の選定:永代供養墓や樹木葬を扱う霊園・寺院は多いため、まずは場所や費用、希望する供養形式などを考慮し、いくつかの候補を絞ります。資料請求から始めましょう。
②現地見学: 候補となる施設を実際に訪れ、交通の便、施設の雰囲気、管理状況、清掃状態などを確認します。
③契約: 納得できる施設が見つかったら、契約を締結します。この際に、納骨の日程なども確認しておきましょう。
④ご納骨: 事前予約の上で、ご遺骨を納骨します。永代供養墓の中には、ご遺骨を引き渡し完了となる場合もあります。(後日施設側で納骨が行われます。)
お墓を持つか持たないかの選択において、費用は重要な検討要素の一つです。
散骨や手元供養は、墓地の永代使用料や墓石の建立費用、年間管理費、お布施などが不要となるため、初期費用や維持費用を大幅に軽減できます。しかし、新たなご遺骨が発生するたびに、その都度供養方法を検討し、費用を支払う必要があります。
一般的なお墓は、初期費用が高額になる傾向がありますが、一度建立すれば代々受け継ぐことが可能です。長期的には、複数人のご遺骨を埋葬できるため、結果的に一人あたりの費用が抑えられる場合もあります。ただし、年間管理費やお布施などの継続的な費用は発生します。
→ お墓の契約・購入は【お墓の契約・購入】時期・費用・見学ポイント をご覧ください。
費用だけでなく、ご先祖様への供養の気持ちや宗教観も、お墓の選択に大きく影響します。
「代々のお墓を守りたい」「ご先祖様と同じ場所に眠りたい」と考える方にとっては、物理的なお墓があることで、心の拠り所となります。定期的にお墓参りに行くことで、ご先祖様との繋がりを感じられる方も多いでしょう。
散骨は、物理的なお参り場所がないため、故人を偲ぶ場所がなくなることに寂しさを感じる方もいます。また、永代供養墓の合祀形式のように、他のご遺骨と一緒に埋葬されることに抵抗を感じる方もいらっしゃいます。
従来の寺院墓地では宗派が限定されることがありますが、永代供養墓や樹木葬では宗派不問であることが多いため、宗教的な制約なく供養方法を選びたい方にはメリットとなります。
→ 寺院墓地のメリット・デメリットの詳細は【寺院墓地】メリット・デメリットと選び方をご確認ください。
お墓を持つ・持たないのメリット・デメリットをまとめると以下のようになります。
項目 | お墓を持つ(一般墓) | お墓を持たない(散骨・永代供養墓・樹木葬など) |
---|---|---|
費用 | 初期費用高め、年間管理費・お布施等の継続費用あり | 初期費用・維持費用を抑えられる傾向にある |
管理 | 承継者が管理・清掃を行う必要がある | 物理的なお参り場所がない、または共同の場になる |
供養の場 | 物理的なお参り場所がある | 物理的なお参り場所がない、または共同の場になる |
承継 | 代々受け継ぐことが前提、承継者が必要 | 承継者不要 |
手続き | 一度契約すれば、その後の埋葬手続きは比較的簡素 | 新たなご遺骨が発生するたびに、都度供養方法の検討と契約が必要になる可能性あり |
伝統的な供養として受け入れられやすい | 新しい形式のため、親族間の理解が必要になる場合も |
最終的にどちらの選択が良いかは、ご自身の価値観、経済状況、そして何よりもご家族・ご親族の意向によって大きく異なります。将来にわたって、どのような形で故人を供養していきたいのか、そして誰にどのような負担をかけたくないのかを、費用面だけでなく、精神的な側面も踏まえて、ご家族で十分に話し合うことが大切です。
→ お墓選びで後悔しないためのポイントは【お墓選び】後悔しないための確認ポイント で詳しく解説しています。
現在お墓をお持ちで、将来的に承継者がいない、または承継する方がいないという問題を抱えている場合、お墓は「無縁墓」となる可能性があります。無縁墓になることを防ぐためには、「墓じまい」を検討することが有効な解決策となります。
現在のお墓を撤去し、ご遺骨を取り出して別の場所に移す(改葬する)ことです。
→ お墓じまいの詳細は【お墓じまい】相談・手続代行 でご紹介しています。
墓じまいを行った後のご遺骨の供養先としては、主に以下の方法が挙げられます。
ご自身に万が一のことがあった際に、希望する供養方法(散骨や永代供養など)を行ってもらえるよう、生前にご親族とよく話し合い、意思を伝えておくことも非常に重要です。また、専門家にご相談いただくことで、スムーズな手続きと後悔のない選択が可能になります。
→ お墓の承継トラブルに関するQ&Aの詳細は【お墓の承継トラブル】Q&A・事例と対策 でご確認いただけます
現代社会において、お墓に対する意識やニーズは大きく変化しています。お墓の維持管理の負担、承継者問題、そして多様なライフスタイルの広がりから、「お墓は不要」と考える方が増加傾向にあります。
特に、以下の点が近年の傾向として挙げられます。
当事務所では、これまで数多くの「墓じまい」に関するご相談を承ってきました。その中でも、寺院墓地を墓じまいし、永代供養墓や散骨へ改葬するケースが最も多くなっています。ご相談者様のお話をお聞きすると、主な理由としては以下の2点が挙げられます。
一方で、ご住職様との関係性や、ご自宅からの距離などを考慮し、遠方のお墓を墓じまいして、より身近な場所にある寺院墓地へ改葬される方もいらっしゃいます。どちらの選択が最適かは個人の価値観によって異なりますが、当事務所の経験から言えば、永代供養墓や散骨への改葬を選択される方が圧倒的に多いのが現状です。
まさに現代は、お墓のあり方が大きく変化する「過渡期」にあると言えるでしょう。
→ 墓じまいの理由と改葬先選びのポイントは【墓じまい】主な理由と改葬先選びのポイント で詳しく説明しています。
「お墓は不要か、必要か」という問いに対する答えは、ご自身のライフスタイルや価値観、そして何よりもご家族との合意によって変わります。
この記事では、お墓を持たない選択肢としての手元供養・散骨・永代供養墓・樹木葬、そしてお墓を持つこととの比較について解説しました。
もし、ご自身にとって最適な供養方法がどれなのか、あるいはご家族との話し合いをどのように進めれば良いのかなど、お墓に関するお悩みがございましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。
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・大塚法務行政書士事務所は、お墓に関する専門家として、これまで様々なメディアで取材を受け、記事掲載や講演を行ってまいりました。詳しくは、こちらからご覧ください。
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