
・「お墓が遠方で管理が難しい」「子供に負担をかけたくない」「承継者がいない」…様々な理由から「墓じまい」を考え始めた方が、次に直面する不安の一つに「寺院のご住職に、この話をどう切り出せば良いのだろう?」という戸惑いがあるかと思います。
高額な費用を請求されたり、反対されたりするのではないか、と心配される方も少なくありません。
このような不安を少しでも和らげ、ご住職との話し合いを円満かつスムーズに進めるためには、事前の準備と、何よりもご住職にどのような話し方をすれば良いかを知っておくことが非常に大切です。
今回は、墓じまいの際に、ご住職と話す際の具体的な言葉遣いや態度、会話の進め方、誠意ある伝え方に焦点を当てて、より詳しく、実践的に解説いたします。
・ご住職に墓じまいについてお話する際、多くの方が「離檀料」やそれに伴う費用について不安を感じられるかと思います。「一体いくら包めば良いのだろう?」「高額な金額を請求されないだろうか?」といった金銭的な心配は尽きないものです。
離檀料は寺院によって金額が異なり、決まった相場というものがなく、提示された金額に戸惑う方もおります。実際に、比較的高額な金額を伝えられるケースがないわけではなく、法的には支払い義務がないと考えられる一方で、それが原因でトラブルになる可能性もゼロではありません。
これらの費用や、もしかしたら反対されるかもしれないという寺院の対応について考え始めると、不安ばかりが募ることもあるかもしれません。しかし、不安ばかり抱えていても状況は変わりません。まずは誠意をもって相談の場を持ち、どのような話になるのか、どのような選択肢があるのかを確認することが大切です。多くのご住職は、檀家さんの状況を理解しようと努めてくださいます。
離檀料の詳しい考え方や、高額な請求をされた場合の具体的な対処法については、こちらの記事:高額な離檀料を請求されたら どうすれば良いか?で詳しく解説していますのでご参照ください。
また、閉眼供養のお布施についてもいくら渡せば良いか迷うことがありますが、お布施の目安や渡し方については、こちらの記事:墓じまいのお布施は幾ら?いつ渡す?封筒の書き方で詳しく解説しています。
ご住職との話し合いを円滑に進めるためには、事前の準備が非常に重要になります。なぜなら、 準備なく一方的に話を切り出したり、失礼な態度をとったりすることは、ご住職のお気持ちを害し、その後の手続きがスムーズに進まなくなる原因にもなりかねないからです。
まずは、「なぜ今、墓じまいを行いたいのか」という理由を、ご住職に分かりやすく、そして誠実に説明できるよう具体的に整理しておきましょう。複数の理由がある場合は、最も重要な理由を軸に組み立てることが大切です。
理由を整理する際のポイントは以下の通りです。
墓じまいの理由を曖昧にせず、具体的な状況(例: 「子供が遠方に住んでおり、後を継ぐのが難しい」「私の代で承継する者がいなくなるため、このままでは無縁になってしまう」)を伝えましょう。
ご先祖様や将来の家族への思い(例: 「ご先祖様が無縁仏になるのは避けたい」「子供に管理の負担をかけたくない」)といった、前向きな理由を強調すると理解を得やすくなります。
今までお墓を守っていただいたことへの感謝の気持ちを根底に持つことが大切です。この気持ちを伝えることで、より丁寧で誠意ある姿勢を示すことができます。
一方で、避けるべき理由の伝え方もあります
「お寺の管理費が高いから」「付き合いがないから」といった、寺院や費用への不満だけを前面に出すのは避けましょう。
「なんとなく大変だから」「もういいかなと思って」といった、具体的な理由を伝えないのは、ご住職に真意が伝わりにくくなります。
長年にわたり、お墓を守っていただき、ご先祖様をご供養いただいたことへの感謝の気持ちは、必ず言葉にして伝えましょう。話し合いの冒頭や適切なタイミングで感謝を伝えることで、丁寧で誠意ある姿勢を示すことができます。
具体的な感謝のエピソード(例: 「〇〇の際には大変お世話になりました」)などを交えると、より気持ちが伝わります。
ご自身がお墓の使用者(契約者)であり、かつ祭祀承継者であるか確認しておきましょう。お墓じまいは、お墓の使用者(祭祀承継者)の方が進めることになります。使用者以外の方が使用者の許可なく勝手に墓じまいを進めることは出来ません。
もし祭祀承継者について疑問がある場合は、事前に確認しておくことをお勧めします。
ちなみに、誰が墓じまいの費用を負担するのか、祭祀承継者については、こちらの記事:墓じまいの費用は誰が負担するのか?で詳しく解説しています。
いよいよご住職とお話する際に、具体的にどのような言葉遣いや態度を心がければ、円満な話し合いを進めることができるのか、具体的なシーン別に見ていきましょう。
最初の言葉は、ご住職に与える第一印象を大きく左右します。丁寧さと、一方的な通告ではなく「相談したい」という姿勢を示すことが非常に重要になります。
「ご住職様、〇〇家△△(氏名)と申します。お忙しいところ大変恐縮なのですが、実はお墓の件でご相談させて頂きたいことがございまして、つきましては、お時間を頂戴できますでしょうか。」
「ご住職様、本日はお時間を頂きありがとうございます。〇〇家△△(氏名)と申します。この度、お墓の件でご相談させて頂きたく参りました。」
次に、事前に整理した理由を、正直に、しかし丁寧な言葉遣いで説明します。声のトーンは落ち着いて、感情的にならないように注意しましょう。
・「実は、私の代で後を見てくれる者がおりませんで(または、子供たちが遠方におり)、将来このお墓が無縁になってしまうのではと案じております。ご先祖様が無縁になるのは忍びなく、私が元気なうちに整理をしておきたいと考え始めました。」
・「私どもも高齢になり、遠方にございますこちらのお墓になかなかお参りに来ることが難しくなってまいりました。子供に負担をかけることも考え、これを機に自宅近くへの改葬を検討しております。」
・「子供たちには、将来お墓の維持管理や費用の負担をかけたくございませんで、元気なうちに私自身でお墓の整理を済ませておきたいと考えております。」
・寺院の維持費や寄付への直接的な不満(例: 「管理費が高いのでもう無理です」といった、寺院経営に関する批判)
・他の墓地との単純比較(例: 「別の霊園の方が安いのでそちらに移りたい」といった、寺院を値踏みするような発言)
理由を伝えた後に、長年にわたりお世話になった感謝の気持ちを丁寧に述べましょう。
・「長年にわたり、〇〇家のご先祖様を手厚くご供養いただき、また、お墓をお守りいただきましたこと、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございます。」
・「△△の際には大変お世話になりました。その節は本当に助かりました。」(具体的なエピソードを交えることで、より気持ちが伝わります)
ご自身の状況と理由を説明したら、一方的に決定したことを報告するのではなく、あくまで「相談させてください」という謙虚な姿勢を示すことが、円満な話し合いには不可欠です。ご住職のお考えや、手続きの進め方についてご意見・ご教示を仰ぎたいという姿勢を示しましょう。
・「このような状況なのですが、墓じまいについて、ご住職はどのようにお考えになりますでしょうか。何か良いお知恵はございますでしょうか。」
・「お墓じまいをさせて頂く場合、具体的にどのような手順で進めればよろしいか、また寺院として何かご要望や取り決めなどございますでしょうか、ご教示いただけますでしょうか。」
・「改葬先として〇〇(例: 永代供養墓)などを検討しているのですが、このような方向性でよろしいでしょうか。」(検討状況を伝えることで、具体的な話に進みやすくなります)
離檀料やお布施について確認したい場合も、失礼にならないよう丁寧な言葉を選びましょう。この話題はデリケートですので、タイミングを見計らうことも大切です。
・「大変恐縮なのですが、今後の手続きを進めさせて頂く際に、お布施やお寺様にお納めする費用について、どのようになりますでしょうか、ご教示いただけますでしょうか。」
・「もし差し支えなければ、目安としておいくらほどお納めすればよろしいか、お伺いしてもよろしいでしょうか。」
・高額な金額を提示された場合(交渉の第一歩として)
「大変申し訳ございませんが、正直申し上げまして、私どもの現在の経済状況では、その金額をご用意するのが難しい状況です。
実は〇〇(例: 年金生活である、他に扶養家族がいる、大きな病気をしたなど)といった理由から、〇〇円ほどであれば何とかご用意できるかと考えているのですが、この範囲でお納めすることは難しいでしょうか。」(正直に状況を伝え、可能な範囲を示すことが重要です。感情的にならないように注意しましょう。)
・「離檀料はいくらですか?」「お布施はいくら払えばいいんですか?」(尋ね方が単刀直入すぎる、失礼に当たる可能性が高い)
・「インターネットには〇〇円くらいって書いてありましたけど?」(相場観を持ち出して値切るような姿勢と捉えられかねない)
実際に話している間の態度も重要です。
ご住職のお話をさえぎらず、最後までしっかりと耳を傾けましょう。相槌を打ったり、頷いたりするなど、熱心に聞いている姿勢を示すことも重要です。これにより、ご住職も安心して話してくださいます。
もしかしたら、想定外の反応(改葬に反対される、厳しい口調になる、高額な離檀料を求められるなど)があるかもしれません。そのような場合でも、その場で感情的になったり、言い争いになったりするのは絶対に避けましょう。事態が悪化し、その後の手続きがさらに困難になる可能性が高いです。
その場で結論が出せない場合や、ご住職からの話に納得がいかない場合、あるいは冷静に判断できないと感じた場合は、無理にその場で答えを出そうとせず、「一度持ち帰って家族と相談させてください」「いただいたお話について、改めて検討させていただけますでしょうか」「後日改めてご連絡(または改めてお伺い)させて頂けますでしょうか」といった形で、その場での即答を避け、検討する時間を持つことが大切です。
なお、ご自身で直接お話することが難しい場合や、様々な理由でご住職に会いたくないと感じる場合の代替手段(手紙、家族代行、専門家への依頼など)については、こちらの記事:墓じまい で住職に会いたくない!どうすれば良いか?で詳しく解説していますので、こちらも参考にしてください。
また、寺院との間で不要な揉め事を避け、円満に墓じまいを進めるための全体的な心構えや戦略、万が一のトラブル対応(弁護士への相談なども含む)については、こちらの記事:墓じまい・離檀の最初の相談で揉めないためのポイントで詳しく解説していますので併せてご参照ください。
墓じまいをご住職にお伝えする際は、手続きそのものよりも、**どのように「話すか」**が、その後の進行を左右する非常に重要な鍵となります。最も大切なのは、誠実さと丁寧さを尽くし、一方的な通知ではなく「相談させてください」という謙虚な姿勢で話を切り出すことです。
長年にわたりお墓をお守りいただいたことへの心からの感謝を伝え、墓じまいを検討する具体的な理由を正直にお話ししましょう。会話中はご住職のお話にも真摯に耳を傾け、感情的にならず常に冷静な対応を心がけることが大切です。
この記事で解説した具体的な言葉遣いや態度、会話の進め方を参考に、ご住職との話し合いに臨むことで、相互理解が進み、墓じまいを円満かつスムーズに進めることができる可能性が高まります。
この記事を作成してから15年以上が経ち、その間多くの方の墓じまいのご相談・お手伝い、そして様々なご住職とお会いしてまいりました。
その経験から改めて言えるのは、結局のところ、墓じまいをされる方からの丁寧な説明と、状況に応じた礼節をわきまえた対応が、円満な解決のために最も重要であるということです。
インターネット上の情報だけを鵜呑みにした一方的な通告や、強硬な姿勢は、ご住職のお気持ちを害し、無用な摩擦を生む可能性が高いです。
まずは「相談」という姿勢で誠意をもって臨むことが、ご住職との間で信頼関係を築きながら手続きを進めるための最も有効な「話し方」のポイントだと確信しています。誠意は必ず伝わるはずです。
»» 次の記事:改葬先の選び方と注意点について »»
«« 前の記事:墓じまいで注意する点について ««
■ お問合せは こちらから ■
~ 大塚法務行政書士事務所 ~
東京都 葛飾区 新宿6-4-15-708
営業時間AM9:00~PM6:00
(土日祝日対応可)